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田中ひろし法律事務所のBlog

2016年2月26日 金曜日

マスコミが報じる刑事事件の言葉

こんにちは!田中ひろし法律事務所です。
刑法が一部改正されました。注目なのは「一部執行猶予」です。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1301F_T10C13A6CR0000/
本改正については2013年に公布され、今年の6月に施行されます。

一般的に「懲役2年執行猶予3年」という判決の場合、本来は2年間の懲役刑だけど、すぐに刑務所に入るわけではなく、3年間刑の執行を猶予します、という意味です。
3年間何もなければ、2年間の懲役刑を受けることはありません。

今回の一部執行猶予は、「懲役2年そのうち6か月の執行を3年間猶予」という判決の言い渡しが可能になります。この場合は、すぐに刑務所に入ることになりますが、2年ではなく1年半の懲役刑を受けた後に出所することができます。そして、3年間何もなければ、残りの6か月の刑の執行を猶予します、ということです。

今までは、刑の期間の全部を実刑か、執行猶予かしかなかったのですが、選択肢の幅が広がったことになります。

さて、本日はマスコミで観たり聞いたりする刑事事件の言葉について、説明したいと思っています。
法律家が使う言葉と、マスコミの言葉が異なることがあります。できれば、法律に書かれている言葉でマスコミも報道してほしい、という願いを込めて、言葉の説明をしていきます。

<今回の内容>
1 容疑者?被疑者?
2 告発?告訴?
3 被告人?被告?

1 容疑者?被疑者?
元プロ野球選手の清原氏が覚せい剤保持、使用した可能性があるということで、逮捕されました。詳細は皆さんご存知だと思いますので省きますが、マスコミは逮捕されると「容疑者」という言葉を使います。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160222-OYT1T50184.html

○○という罪に該当する可能性がある、ということで「容疑」という言葉を使っています。ですが、刑事訴訟法では、疑いがあるということで「被疑者」という言葉が使用されています。

両者とも意味は同じですが、マスコミは容疑者という言葉を使い続けています。一般市民が刑事事件の当事者になったり、裁判員になったときに余計な疑問を持つことがないように、マスコミも「被疑者」で統一したほうがいいと思うんですが。

2 告発?告訴?
告発も告訴も刑事訴訟法の言葉です。マスコミ特有の言葉ではありません。

この二つの言葉は、犯罪の事実を捜査機関に申告するということでは共通していますが、主体が異なります。
「告発」は犯人以外の第三者が申告することで、「告訴」は被害者やその親族など法律で定められている告訴権者が申告することです。被害者でなくでも、捜査機関に「あのひと捕まえてください」と申告することができます。もちろんすべて捜査されることはありませんので、むやみに告発しないでくださいね。

最近、小保方晴子氏が兵庫県警に事情聴取されたということがありました。
http://mainichi.jp/articles/20160218/k00/00m/040/103000c
このニュースだと理化学研究所のOBの男性が「告発」したとされています。その犯罪事実は研究所からES細胞を持ち出されたというものです。すなわち犯人は不明だけど、窃盗の犯罪事実があるので捜査してほしいということです。ただしこのOBは直接研究所にかかわりはないので、第三者ということで「告発」ということになります。

3 被告人?被告?
マスコミの方に、声を大にして言いたいのは、「被告人」と「被告」を法律で使われている通りに使用してほしいことです。

「被告人」とは刑事訴訟法で、被疑者が起訴されて裁判にかけられたときに使用されます。
刑事事件では「被告人 VS 検察官」という対立構造です。
そして、「被告」とは民事訴訟法の「原告」の相手方です。民事事件は訴えを起こした方を原告、訴えられた方と被告といいます。「原告 VS 被告」という対立構造です。

「被告」は民事事件ですから、「お金返せ」「土地返せ」「損害賠償を請求します」というもので、罪を犯したわけではありません。裁判に負けたからといって、刑事罰を受けるわけではありません。

しかしながら、マスコミは刑事事件でも「被告人」のことを「被告」と使うので、一般市民の方が混乱して覚えてしまっています。
田中ひろし法律事務所でも、依頼者が民事事件の訴状を受け取って来所されますが、そこには依頼者の名前が被告の欄に書かれており、「自分は悪いことはやっていません」「警察につかまるのでしょうか?」「家族に迷惑がかかる」と相談を受けます。

あまりにもマスコミの「被告」という言葉がインパクトがあるので、自分が刑事罰を受けることになっていると感じておられます。弁護士事務所としては、その誤解を説明することから始めることになり、有料の法律相談だと本題にたどり着けないこともあります。

二文字か三文字かの違いですが、法律に書かれている言葉ですので、マスコミも法律に即して使用してほしいと切に願っています。

投稿者 弁護士法人田中ひろし法律事務所

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